下水処理研究会第14回セミナー報告概要


     主  催:(社)日本水環境学会東北支部下水処理研究会
     後  援:(財)宮城県下水道公社
     日  時:平成14年12月13日(金)13:30〜16:30
     場  所:勾当台会館3F蔵王東の間
              仙台市青葉区国分町三丁目9−6
     参加者数:61名

<挨  拶>
(社)日本水環境学会東北支部下水処理研究会世話人 江成 敬次郎(東北工業大学環境情報工学科)
<セミナー>
 テーマ:下水処理施設の臭気対策論

演題:下水処理に関わる臭気事象の特徴と対策 
演者:大迫 政治(独立行政法人国立環境研究所主任研究員)
1,臭気問題と行政状況
1) 悪臭防止法
規制対象形態は、敷地境界規制、気体排出口規制、排出水規制の三形態。
敷地境界規制は22種の特定悪臭物質の濃度での規制と、嗅覚に基づいた臭気指数での規制を 自治体が選択。
下水処理場での通常の生物処理では、排出水規制基準が問題となることはまずない。
悪臭防止法には測定義務はなく、苦情が出てから対処していることが多いのが現実だが、 自主的な管理が必要。
指定された規制地域のみに規制がかかる。農村部は規制地域でないのが一般的。近年の都 市化で規制地域は拡大の方向にある。
2)近年の課題
・住民の感覚に直接的に対応する、悪臭物質濃度規制から臭気指数規制への転換。
・臭気発生源の小規模化及び多様化。(例:ビルピット)
・廃棄物リサイクルの際に発生する臭気対策。
・下水処理水再利用の際の処理水の臭気対策。
・合流式下水道の大雨後の排出水による河川からの臭気発生。
・下水処理場が地域住民の理解を得るための努力。
2,臭気に関する基礎知識
1) においの仕組み
におい分子は鼻腔中上部の嗅上皮にある嗅細胞で受容され電気刺激が生じ、脳に信号が送られる。 嗅細胞はそれぞれ応答しやすいにおい分子が決まっている。
2) 嗅感覚の特徴
臭気の強さは臭気物質濃度の対数に比例する(ウェーバー・フェフナー則)。このため、臭気物 質を90%除去しても臭気対策としては不十分。99%以上が求められる。
敏感であるが順応しやすい。人の感覚はピーク時のにおいの強さに大きく影響されるため、ピーク 時に対する対策が必要。
3,下水道管渠の硫化水素中毒例
下水管渠清掃作業のため管渠に入る前に硫化水素濃度を測定し、安全を確認したが、硫化水素中毒 で死亡した。原因は底泥を攪拌したことで、過飽和となっていた硫化水素が急激に発生したこと。
溶存臭気物質の発散過程をモデル化した二重境膜説によると、水に対する溶解度が小さい硫化水素 水等は、液相から気相への物質移動が液相の乱れに左右されやすく、溶解度が大きい脂肪酸やアン モニアは液相の乱れには左右されにくい。
硫化水素の発生はpHにも影響される。コンポスト施設では、分解によりアンモニアが多量に発生 しpHが上がるため、硫化水素はほとんど発生しない。アンモニア対策が必要。
4,農村集落排水処理施設の例
硫化水素は管渠ですでに生成しており、ポンプの起動で下水が攪拌される際に発生。また、 嫌気性ろ床で発生するが、接触曝気槽では発生しない。汚泥処理では汚泥の引抜時に多く発生。
5,臭気対策
薬品による対策はランニングコストが大きい。土壌脱臭はショートパスが生じないような適正な 管理が課題。このため現在は生物脱臭と活性炭吸着が主流。効率的な脱臭設備の設計には、臭気を 発生源から高濃度で引くダクトワークが重要。




演題:下水処理場における臭気対策の実例 
演者:伊藤 和幸(日本ヘルス工業(株)東北中央事務所主任)
  1, はじめに
下水処理場では見学者を迎えるために場内整備等を行うが、悪臭があると汚くてくさい イメージを与えてしまう。このため、臭気には特に気を配った管理が必要。
2, 菌の出す臭い
細菌が有機物を分解する過程で生成するものが臭いの原因。汗や垢の分解で有機酸等が生成し 体臭の原因となる。
下水処理場では硫酸の還元と有機物の分解で発生する硫黄系の臭気が最も問題となる。
3,ウェーバー・フェフナーの法則
臭気の強さは臭気物質濃度の対数に比例する。このため、臭気対策は困難。
4,臭気対策事例
下水処理施設の脱水前の汚泥貯留槽に添加率400ppmで複合消臭剤を投入したところ、 槽内の硫化水素濃度が50ppm程度であったものが一時的に1ppm以下となったが、 その後次第に上昇した。感覚的には臭気は十分には低減しなかったため、汚泥への直接添加では 不十分と思われた。そこで、養鶏場の温度上昇抑制に用いられているのと同様の噴霧機で、 フラボノイド系の消臭剤を散布。噴霧機は約100Lのタンクと40気圧に加圧できるポンプと外径 1cmの耐圧ホースとノズルで構成。ノズルの設置場所は脱水ケーキのホッパー内とし、汚泥を搬 出する際に噴霧した。これにより、消臭剤添加と噴霧の両方で十分な効果が得られた。




演題:汚泥処理施設の臭気抑制について
  演者:高橋 信喜((財)宮城県下水道公社吉田処理場技師)
1, はじめに
大和浄化センターは供用開始後10年が経過。硫化水素の影響と思われるコンクリートの腐食や 汚泥攪拌機の損傷等の問題が生じている。
2, 施設概要
平成13年度平均流入水量:19,367m3/日、処理能力:41,250m3/日 処理方式:標準活性汚泥法
汚泥処理方式:最初沈澱池引抜汚泥は重力濃縮し、最終沈澱池引抜汚泥は遠心濃縮し、 これらを汚泥貯留槽で混合し脱水。
3, 消臭剤添加試験
1)テーブル試験
フラスコに脱水機供給汚泥100mlを入れ各消臭剤を添加し、拡散式ドジチューブで気相の硫化 水素濃度を測定。各消臭剤の主成分は次の通り。A:亜鉛,鉄,殺菌剤,界面活性剤、B:窒素 系酸化物、C:有機酸塩,アミン化合物、D:ポリ硫酸第二鉄。消臭剤Aが最も効果有り。
2)脱水機供給配管への添加
脱水機汚泥供給時に、定量ポンプにて脱水機汚泥供給配管に消臭剤Aを添加。添加濃度100、 300ppmのいずれでも、脱水機フード内の硫化水素濃度は30ppm程度であったものが1ppm以下となった。
3)汚泥貯留槽への添加
消臭剤Aを汚泥貯留槽へ直接添加。添加濃度250ppm以上で、貯留槽内部の硫化水素濃度は50ppm程度で あったものが10ppm以下となった。
4,ポリ鉄添加試験
平成14年11月5日から30日まで、重力濃縮槽前の分配槽へポリ硫酸第二鉄を連続添加。添加濃度は 処理場流入水量に対して約11ppm。汚泥貯留槽、重力濃縮槽、脱水ケーキホッパー内の硫化水素濃度はいずれも1/3程度に低下。 溶存硫化物については、重力濃縮汚泥では添加開始期間のみ大幅に低下したが、脱水機供給汚泥では添加開始後に低下し、 添加終了後も十数日間はやや低下したままであった。
また、添加期間は重力濃縮槽のSS回収率が増加した。添加費用は流入水1m3当たり0.36円であった。
5,まとめ
消臭剤の添加により硫化水素濃度が低下し、作業環境改善や臭気低減が確認された。
また腐食防止効果により設備の安定運転、更にはコスト縮減につながることが期待される。


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