下水処理研究会第15回セミナー報告概要


主  催:(社)日本水環境学会東北支部下水処理研究会
後  援:(財)宮城県下水道公社
日  時:平成16年3月12日(金)13:30〜17:00
場  所:勾当台会館3F蔵王東の間
     仙台市青葉区国分町三丁目9−6
参加者数:29名

<挨  拶>
(社)日本水環境学会東北支部下水処理研究会世話人 江成 敬次郎(東北工業大学環境情報工学科)
<セミナー>
テーマ:排水処理施設の臭気対策

演題<1>:全国処理場の臭気対策の実態と処理工程別臭気発生調査報告 
演者:森田 巌(日本下水道事業団技術開発研修本部技術開発部主任研究員)
1,臭気発生機構の整理と実施設における臭気発生実態調査
1)臭気発生機構の整理
下水中の硫化物は硫酸態が最も多く、硫酸は硫酸還元菌により還元され硫化物となる。
硫化物の形態はpHに大きく依存し、硫化水素分子となったものが揮発し臭気となる。
下水処理関連施設では、主に下水が攪拌される箇所で高濃度に発生。
2)実処理施設における臭気調査
@ 対象施設と測定場所及び測定回数
・対象施設:標準活性汚泥法2施設(I,Y浄化センター),オキシデーションディッチ法1施設(M浄化センター)。I,Y浄化センターでは最初沈殿池汚泥を重力濃縮し、余剰汚泥を遠心濃縮し、消化処理後に脱水。M浄化センターでは余剰汚泥を濃縮し脱水。
・測定場所:流入人孔,着水井,分配槽,最初沈殿池,反応槽,最終沈殿池,汚泥濃縮槽(重力,機械)
・測定回数:2,6,9,12月の4回
A 硫化水素測定結果(連続測定)
・I浄化センター:流入人孔上流に圧送式マンホールポンプがあり、流入人孔ではポンプの起動に合わせてピーク状に高濃度の硫化水素を検出。ピーク濃度は9月が約50ppmで、12月は水量が少ない夜間のみ高く約40ppm。重力濃縮槽も投入に合わせてピーク状に高濃度の硫化水素を検出。ピーク濃度は9月が150〜300ppmで2月は約20ppm。
・Y浄化センター:最初沈殿池では顕著なピークが見られず、9月は25〜50ppmで12月は約5ppm。重力濃縮槽では9月のピーク濃度が200〜300ppmで12月は約10ppm。
・M浄化センター:オキシデーションディッチ法のため、分配槽以外では高濃度に検出されず。分配槽ではピーク濃度が約50ppm。
B 他項目測定結果(スポット測定)
硫化水素が高い時にメチルメルカプタンも高い。アンモニア,硫化メチル,二硫化メチルは硫化水素,メチルメルカプタンに比べて低い。測定槽水のORP,DO,pHが低い箇所で臭気の発生が多い。特にI,Y浄化センター夏季における重力濃縮槽のpHは約5.4と低い。
3)まとめ
・硫化水素の発生は季節変動があり、冬季より夏季の方が発生量が多かった。
・分水槽,最初沈殿池,重力濃縮槽で大量の硫化水素の発生が見られた。
・DOは硫化水素の発生をコントロールし得る指標と判断された。
・pHは硫化水素の発生状況を把握する指標として使えるものと判断された。
2,処理場内に貯留された脱水汚泥からの臭気発生状況調査
1)貯留実験
@ 実験条件
・試料:オキシデーションディッチ法の3処理場の脱水汚泥
・装置:120Lの容器に脱水汚泥10kgを入れ静置。上部のガスを分析。
・設定温度:10,20,30℃
・調査期間:14日
・分析項目:硫化水素,メチルメルカプタン,硫化メチル,二硫化メチル,アンモニア
A 結果
3処理場のうち2処理場の脱水汚泥は表面にカビが生えて乾燥し臭気が検出されず。
残り1処理場で硫化水素とメチルメルカプタンとアンモニアを高濃度で検出。
設定温度が高い方が高濃度。
硫化水素とメチルメルカプタンは1〜2日目にピークがあり、7日後には低濃度となったが、アンモニアは14日後まで上昇。
高濃度の臭気が検出された処理場の脱水汚泥は、脱水の際にポリ硫酸第二鉄を添加しているが、このことと臭気の発生との関係は不明。
2)現地調査
@ 調査条件
・調査施設:オキシデーションディッチ法の下水処理場
・調査場所:汚泥棟内脱水機付近,搬出用コンテナ付近
・測定項目及び方法:硫化水素を連続測定
A 結果
平常時は低濃度であったが、脱水汚泥の搬出や清掃作業時に高濃度の硫化水素を検出。
3)処理場の脱臭設備の効率的運転に関するアンケート調査結果
@ 調査対象
標準活性汚泥法213箇所(稼動年の古い物)。オキシデーションディッチ法51箇所(稼動年古く1000m3/日以上)。
A 結果
・脱臭設備設置率
標準活性汚泥法全体92%,水処理系約50%,汚泥処理系約60%。オキシデーションディッチ法全体58%,沈砂池及び汚泥処理系約40%。
・脱臭設備の間欠運転実施状況
標準活性汚泥法水処理系5%,汚泥処理系15%。オキシデーションディッチ法水処理系40%,汚泥処理系65%。主に夜間や汚泥処理施設停止時に脱臭設備を停止。
・脱臭設備の設計値と実績値の比較
水処理系硫化水素,汚泥処理系メチルメルカプタン,水処理系メチルメルカプタンが、原臭気濃度が設計濃度よりも高く設計通りに除去されない場合が多い。これは設備の拡張により改善できる可能性がある。
汚泥処理系アンモニア,水処理系二硫化メチル,水処理系アンモニアが、原臭気濃度が設計濃度よりも低く設計よりも除去される場合が多い。これは設備の縮小によりコストの低減を図れる可能性がある。


演題<2>:機能性セラミックによる環境汚染物質の除去
演者:小田嶋 次勝(一関工業高等専門学校物質化学工学科教授)
1,アルカリ溶出型セラミック
1) 特性
一般の機能性セラミックに比べマンガンの含有量が約26%と高い。1500〜1600℃で成型するため非常に硬く使用による磨耗が殆どない。水中でナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウムを溶出し、溶液のpHが緩やかに上昇する。酸化触媒作用により酸化を促進する。
2) 試験結果
硫化水素の酸化試験では、次亜塩素酸だけを添加した場合よりもアルカリ溶出型セラミックと次亜塩素酸を添加した場合の方が、次亜塩素酸の添加量を半分に減らした場合でもより早い速度で硫化水素濃度が低下した。 アンモニア酸化試験では、次亜塩素酸だけを添加した場合よりもアルカリ溶出型セラミックと次亜塩素酸を添加した場合の方が大幅に早い速度でアンモニア濃度が低下した。
3)実施設での利用
埋立処分場排水のアンモニアの処理を、このセラミックを使用して行ったところ、次亜塩素酸とアルカリ溶出型セラミックだけではアンモニア濃度は1ppm以下とならなかった。そこで、紫外線を照射し光触媒反応により酸化反応の促進を図ったところ、目標とする処理結果が得られた。また、亜硝酸イオンと硝酸イオンの生成量も低く抑えらた。
2,錯形成型セラミック
1) 特性
一度成型したものの表面に銀を結合させたもので、銀の含有量が0.28%。850℃で成型しているため、やや強度が弱い。表面の銀がアンモニアと錯体を形成しアンモニアを除去する。また、銀の殺菌効果により菌の増殖を抑制する。
2) 試験結果
気体試料の入ったテドラーバック中に錯形成型セラミックを入れた場合、硫化水素,ホルムアルデヒト,アンモニアのいずれも有効な除去効果が確認された。
3) 実施設での利用
男子トイレの便器に錯形成型セラミックを置いたところ尿石の付着が抑制された。これは、アンモニアが除去されることでpHの上昇が抑えられ、カルシウム塩の生成が抑えられ、また、カルシウム塩に付着する菌の増殖が抑えられたためと考えられる。


演題<3>:南蒲生浄化センターの悪臭とその対策
演者:小杉 謙一(仙台市建設局下水道管理部南蒲生浄化センター所長)
1, 南蒲生浄化センター概要
工事着手:昭和34年。供用開始:昭和39年(沈殿方式),昭和54年(活性汚泥処理)。
処理人口:71万人。平成15年度処理水量:330,000t/日。処理方式:標準活性汚泥法。
2,脱臭設備の状況
近接する民家がほとんどないなど立地条件がよかったため、脱臭設備は脱水処理施設のみに設置されていた。平成7〜9年度かけて周辺環境への配慮から、沈砂池,最初沈殿池,汚泥濃縮槽に脱臭設備を設置したが、最初沈殿池の半分は未着手。脱臭方式は活性炭吸着で、再生炭を使用することで1割程度のコスト縮減を図ることができた。焼却施設は平成8年度の運転開始当初より脱臭を実施。
3,汚泥処理の特徴と臭気問題
焼却炉:処理能力200t/日が1基稼動。2基目を現在建設中で平成17年度より運転開始予定。
脱水機:フィルタープレス脱水機(無機塩添加式)10台,遠心脱水機(高分子凝集剤添加式)3台稼動。
脱水ケーキの発生量が焼却炉の処理能力を上回っており、焼却炉稼動時でも平日に約40tの脱水ケーキを小鶴沢処分場で埋立処分している。遠心脱水機の脱水ケーキは埋立作業で臭気が発生するため、フィルタープレス脱水機の脱水ケーキを埋立処分している。フィルタープレス脱水機の脱水ケーキは、焼却すると多量の塩素ガスが発生し焼却施設の腐食の原因となるため、遠心脱水機の脱水ケーキを焼却処分している。
点検による焼却炉の停止期間は脱水ケーキを全て埋立処分しているが、埋立処分場の受入が平日の昼のみであるため搬出が間に合わない。点検終了までに1,000t以上の脱水ケーキが施設内のストックヤードに積み置かれ、脱水ケーキから発生する臭気が問題となる。この脱水ケーキに対して消臭剤の試験を実施したが、消臭剤を用いない場合との差が殆ど見られず、放置7日目頃より臭気が多く発生した。臭気の発生を抑えるには、積み置く期間を短くするのが最も効果的。
4,その他の取り組み
平成15年度より東北大学と連携して、汚泥処理で発生する硫化水素と太陽光を活用した水素製造システムの研究を実施中。



セミナーの模様
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