下水処理研究会第16回セミナー報告概要


主  催:(社)日本水環境学会東北支部下水処理研究会
後  援:(財)宮城県下水道公社
日  時:平成17年2月24日(木)13:30〜17:00
場  所:宮城県仙台合同庁舎2階会議室
     仙台市青葉区堤通雨宮町4-17
参加者数:30名

<挨  拶>
(社)日本水環境学会東北支部下水処理研究会世話人 江成 敬次郎(東北工業大学環境情報工学科)
<セミナー>
テーマ:下水処理の消毒について


演題:下水処理過程におけるウイルスの消長 
演者:大村 達夫(東北大学大学院工学研究科教授)
1, はじめに
1)将来の社会変化と病原ウイルスの感染リスク
免疫力の弱い高齢者の増加、国際化による輸入ウイルス感染症の蔓延、地球温暖化による熱帯性ウイルス感染地域の拡大、都市の過密化による水の高度利用の促進などにより、将来的に病原ウイルスの感染リスクが増大することが予想される。
2)水中病原ウイルス
病原ウイルスの中でも、糞便として排出される腸管系ウイルスが下水処理上問題となる。代表的なものでは、ピコルナウイルス,レオウイルス,アデノウイルスなどがあり、塩素に対する耐性が強く、通常の下水処理の塩素消毒では不活化しない。
ピコルナウイルスの一種のポリオウイルスは、予防接種の時期にワクチン株が下水処理水中に検出される。
日本の河川でのエンテロウイルス(ピコルナウイルスの一種)の検出率は50%以上。
ウイルスの検出にはPCR法が多く用いられ、培養が困難なウイルスについても検出できるようになった。
2, 水処理過程における水中病原ウイルスの除去効率
水中病原ウイルスの除去及び不活化率は、凝集,砂濾過,活性炭,散水濾床,活性汚泥,塩素,オゾン処理のいずれでも、報告により数%から90%以上まで大きな開きがある。特に活性汚泥法については、0%から99.9%まで極めて広い範囲の結果の報告がある。
遊離塩素のCT値は、大腸菌では不活化率99.9%で0.09mg・min/Lであるのに対して、ポリオウイルスでは不活化率99%で4mg・min/L。塩素処理はウイルスに対しては有効ではない。 オゾンの不活化率99%のCT値は、大腸菌ではで0.006-0.02mg・min/Lであるのに対して、ヒト腸管系ウイルスでは0.006-0.72mg・min/L。オゾン処理はウイルスに対しても有効である。
この違いは、塩素が対象生物の外膜を通過して効果を示すが、オゾンは外膜に直接作用するため。腸管系ウイルスは強い外膜を持っているものが多い。
紫外線(254nm)の不活化率99.9%の露光量は、大腸菌では6.5mJ/cm2であるのに対して、ポリオウイルスでは23mJ/cm2と報告されている。紫外線はウイルスに対してある程度有効。紫外線は対象生物の遺伝子に直接作用し不活化する。しかし、光により遺伝子が修復される光回復の問題が懸念される。
3, 水中病原ウイルスの循環
水循環においては、上流から下流にかけての水の高度利用を介した水中病原ウイルスの都市間伝播が懸念される。また、食品を介した循環では、食中毒感染者が排泄したウイルスが下水処理場で除去されずに海洋に放出され、海洋で水産物に取り込まれて再び食中毒を引き起こすといった問題が懸念される。ノロウイルスのカキを介した循環については、実際に起こっていることが報告されている。
4,ノロウイルス
平成13年度の食中毒発生件数の約14%がウイルスによるもので、その内の99%以上がノロウイルスによるもの。ノロウイルスによる食中毒事例では、小中規模事例の40%程度が生カキによるもの。
ノロウイルスは組織細胞での培養が出来ない。このため、検出及び定量は定量PCR法が主流。またノロウイルスの多様性に対応するため、電子顕微鏡観察や抗原抗体法を用いての検査が実施されている。
5,下水処理場から得られたサンプルからのウイルス検出及び膜によるウイルス除去
大腸菌は活性汚泥法で90〜99.9%のオーダーで除去されていた。また、活性汚泥及び下水処理水を0.45μm以下の膜で濾過した場合には、大腸菌はほぼ完全に除去された
ノロウイルス及びF特異大腸菌ファージの活性汚泥法での除去率は試験日により大きな開きがあった。また、活性汚泥及び下水処理水を各種の膜で濾過した場合には、これらウイルスは、限外濾過膜及び0.1μmメンブレンフィルターでは検出限界以下まで除去され、0.45μmのメンブレンフィルターでも数%〜100%(検出限界以下)の範囲で除去された。これらウイルスの大きさが0.1μm以下であるのに、メンブレンフィルターでの除去率が高いのは、ウイルスの多くが浮遊物質に付着して存在しているためであると考えられる。
活性汚泥及び下水処理水にポリオウイルスを添加し、各種の膜で濾過した場合には、活性汚泥に添加した場合の方が処理水に添加した場合よりも、メンブレンフィルターでの除去率が高かった。これはウイルスが浮遊物質に付着するためで、浮遊物質の少ない下水処理水での除去率が低いのはこのためであると考えられる。 6,膜分離活性汚泥法によるウイルス除去
以上の結果から、膜分離活性汚泥法はウイルス除去に有効な方法であると考えられる。
膜分離活性汚泥法での下水処理をパイロット的に地域を限定して実施し、水環境から病原ウイルスを除去する試みを実施してはどうか。


大村 達夫先生の講演


演題:塩素消毒管理の検討 
演者:阿部 時男((財)宮城県下水道公社管理部次長)
1, はじめに
水道水の残留塩素測定方法において、オルトトリジン法が発ガン性の問題で削除されたのに伴い、宮城県下水道公社では下水処理場放流水の測定方法をDPD法に切り替えた。
このため、従来法との比較検討及び放流水残留塩素計の検討を実施した。
2, オルトトリジン法とDPD法の比較
宮城県下水道公社が管理する5つの流域下水道の放流水で、オルトトリジン法とDPD法の残留塩素濃度測定結果を比較した。オルトトリジン法の値が0.1mg/L以上では、ある程度の相関があるが、それ以下ではDPD法の値が大幅に高く、全体では明確な相関関係が見られなかった。
3, 次亜塩素酸ナトリウム添加によるオルトトリジン法とDPD法の比較
最終沈殿池流出水に次亜塩素酸ナトリウムを0〜2mg/Lの範囲で添加し、両方法で残留塩素濃度を測定した。この結果、DPD法では、添加濃度0.3mg/L付近で残留塩素濃度が上昇しはじめ、2mg/Lまで添加濃度にほぼ比例して測定値が上昇した。一方、オルトトリジン法では、添加濃度1.5mg/L以上で残留塩素が検出されたが、添加濃度と測定結果は比例しなかった。測定結果は、1.5mg/Lの添加で、オルトトリジン法が0.9mg/L、DPD法が0.1mg/Lであり、DPD法が、添加率に対する直線性が良く、感度も高い結果となった。
4, 時間経過に伴う残留塩素濃度の変化
最終沈殿池流出水に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、時間経過に伴いDPD法で残留塩素濃度を測定した。残留塩素濃度は7.5分後にピークを示し、その後緩やかに低下した。45分後にピーク時の6割程度、24時間後にピーク時の3割程度の値となった。
5, 塩素による消毒効果
最終沈殿池流出水に次亜塩素酸ナトリウムを0〜2mg/Lの範囲で添加し、大腸菌群数を測定。添加濃度の上昇に伴い大腸菌群数は低下した。
6,放流水残留塩素計のDPD法校正への切り替え
1) 無試薬式残留塩素計への変更
有試薬式残留塩素計は測定時のpHが約4.8と低いため、放流水中の還元物質により指示値が低下していると考えられる。無試薬式残留塩素計は、DPD法と同様に測定時のpHは中性であり、指示値が高くなると考えられる。そこで、残留塩素計の検知電極を白金から金に交換し、有試薬式であったものを無試薬式に変更した。
2) 砂濾過槽の撤去
残留塩素計の前処理を行う砂濾過槽で残留塩素濃度の低下が見られたことから、砂濾過槽を撤去した。
3) 改良後の残留塩素計とDPD法の比較
スパン校正は、放流水の残留塩素計の測定値をDPD法での放流水測定値に合わせ込む方法で実施。これにより残留塩素計とDPD法の値は安定して同程度となった。
7,改良した残留塩素計による試験運転
残留塩素濃度計の測定値が上がったことで、残留塩素濃度を見ながらの、塩素添加量管理が可能となった。そこで、最適塩素添加量の調査のため、添加量を段階的に減らしたところ、残留塩素0.2mg/L以下で放流水BODの上昇が見られ、0.1mg/L以下ではBODは20mg/L近くまで上昇した。これは硝化菌のアンモニア酸化に伴う酸素消費によるもので、反応槽で硝化を促進している場合には、残留塩素濃度を0.3〜0.35mg/Lで管理することにした。
8,次亜塩素酸ナトリウム使用量の変化
残留塩素計改良に伴う最適添加量の検討により、次亜塩素酸ナトリウムの使用量が4割程度減少した。
9,残留塩素の測定方法による測定値の違いについての検討
1)残留塩素測定方法の整理
・測定時のpH
オルトトリジン法:1.0,DPD法:6.5,無試薬式残留塩素計:放流水では中性,有試薬式残留塩素計:4.8,ヨウ素滴定法:4.8
・測定時の反応
オルトトリジン法:酸性条件下での残留塩素によるオルトトリジンの塩素化 DPD法:遊離残留塩素によるDPDの直接酸化と結合残留塩素によるヨウ素を介したDPDの酸化
無試薬式残留塩素計:電極による残留塩素の直接還元
有試薬式塩素計:残留塩素によるヨウ素の酸化と生成したヨウ素の電極による還元
ヨウ素滴定法:残留塩素によるヨウ素の酸化と生成したヨウ素のチオ硫酸による還元滴定
2)各測定方法による放流水測定結果の比較
・測定結果
オルトトリジン法:0.05mg/L,ヨウ素滴定法:(5分放置)0.04mg/L・(試薬添加直後)0.19mg/L,有試薬式残留塩素計:0.23mg/L,DPD法:0.4mg/L
測定時のpHが高いほど測定値が高い。
ヨウ素滴定法では試薬添加後の滴定までの時間が短いほど測定値が高い。残留塩素との反応で生成したヨウ素が緩やかに放流水中の還元物質と反応するのではないかと考え、残留塩素計の試薬添加位置を変更したところ、試薬添加位置と電極の距離が短いほど指示値が上昇した。
3)放流水の残留塩素測定時に起こる反応のまとめ
放流水にアンモニアが十分に存在する場合、残留塩素の多くはアンモニアと反応した結合残留塩素(モノクロラミン)となる。残留塩素はpHが低いほど活性が高い。
・オルトトリジン法:試薬を添加しpHが低下すると、結合残留塩素の反応は、放流水中の物質との反応と試薬の発色反応との競合となるが、発色反応速度の方が遅いため、測定値が低くなる。
・有試薬式残留塩素計:試薬を添加しpHが低下すると、結合残留塩素の反応は放流水中の物質との反応とヨウ素生成反応との競合となるが、ヨウ素生成反応の方が勝る。しかし、生成したヨウ素は放流水中の物質との反応により消費されるため、ヨウ素の滴定を速やかに行うことで測定値が高くなる。
・ DPD法:試薬を添加してもpHが中性のため、結合残留塩素の反応は主にヨウ素を介したDPDの発色反応に消費される。


阿部 時男先生の講演


演題:仙台市の公共下水道終末処理場における消毒処理の現状と課題
演者:奥田 善昭(仙台市建設局下水道管理部南蒲生浄化センター水質管理係長)
1, 仙台市の下水処理場の消毒方式(平成15年度)
広瀬川浄化センターでは、放流先の広瀬川の水質保全のためにオゾン消毒を採用した。定義浄化センターでは、放流先のダムの水質保全のために紫外線消毒を採用した。
・南蒲生浄化センター
処理水量:318,000m3/日,処理方式:標準活性汚泥(擬似嫌気好気),消毒方式:塩素(次亜塩素酸ナトリウム)
・広瀬川浄化センター
処理水量:12,000m3/日,処理方式:2段嫌気好気+砂濾過,消毒方式:オゾン
・上谷刈浄化センター
処理水量:8,183m3/日,処理方式:標準活性汚泥+砂濾過,消毒方式:紫外線
・秋保浄化センター
処理水量:2,340m3/日,処理方式:オキシデーションディッチ,消毒方式:塩素
・定義浄化センター
処理水量:94m3/日,処理方式:回分式活性汚泥+好気性ろ床+砂濾過,消毒方式:紫外線
2,消毒方式の特徴
・塩素
長所:費用が安価。制御が容易。
短所:残留塩素が放流先に放出。消毒副生成物が放流先に放出。塩素漏れの危険がある。
・紫外線
長所:残留性が無い。維持管理が容易。
短所:固形分があると殺菌が不十分となる(砂濾過等の前処理が理想)。
・オゾン
長所:色度・臭気・難分解性有機物が減小する。
短所:費用が高価。オゾン発生装置や排オゾン処理装置等が複雑である。BOD値が上昇する。
広瀬川浄化センターの実績では、CODが約15%低下,BODが0.8mg/L程度上昇,色度が約70%低下,臭気が3倍希釈程度まで低下した。
3, 消毒設備にかかる費用
1)下水道事業団技術開発部報より試算
・設置費用:オゾン>紫外線>塩素・臭素
・維持管理費用:臭素>オゾン>紫外線・塩素
2)仙台市の消毒施設維持管理費の実績(処理水量に対して)
・定義浄化センター:処理水量が少ない上に紫外線設備の点検費が高価なため、最も高価。
・広瀬川浄化センター:オゾン設備の点検費および電気代が高価なため、次に高価。
・上谷刈浄化センター:電気代は小さいが、紫外線設備の点検費が高価。
・秋保浄化センター:塩素の薬品費が大半。費用は上谷刈と同程度。
・南蒲生浄化センター:塩素添加量を削減する運転を実施したため、最も安価。
4, 南蒲生浄化センターでの塩素添加量削減運転
残留塩素や消毒副生成物の仙台湾への放出を懸念し、添加量を削減した。
冬季は流入水の大腸菌群数が低下するため、放流水の大腸菌群数も低下する。放流水の濁度が7度以下であれば、基準値の3,000個/cm3以下となることを確認したため、冬季に塩素の無注入運転を実施した。
夏季は、流入大腸菌群数が増加し、海水浴への影響が懸念されるため、塩素を添加し、大腸菌群数が1,000個/cm3以下となるように調整した。反応槽で硝化が進行するとBODが上昇することから、夏季はMLSS濃度を低下させた。
5, 合流式下水道の問題
大腸菌群数は塩素添加後の時間経過に伴い低下する。一部合流式の南蒲生浄化センターでは、降雨時には塩素混和池の接触時間が短くなるため、能力の大きな塩素注入設備が必要である。
6,今後の課題
環境への影響が少なく、維持管理費が安く、維持管理がしやすい消毒方法が理想である。
放流水の利用目的に合った消毒方法と、消毒方法に合った水処理施設の管理が重要と考える。


奥田 善昭先生の講演



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